函館地方裁判所 平成7年(わ)41号 判決 1995年12月22日
裁判所書記官
遠藤清典
本店所在地
函館市松風町七番一八号
有限会社金
(代表者代表取締役 松橋保)
本籍
函館市時任町一七二番地の三
住居
函館市湯川町一丁目一三番二九号
会社役員
松橋保
昭和一〇年一一月八日生
主文
被告人有限会社鮨金を罰金一二〇〇万円に、被告人松橋保を懲役一年に処する。
被告人松橋に対し、この裁判確定の日から三年間刑の執行を猶予する。
理由
(犯罪事実)
被告人有限会社金(以下「被告会社」という。)は、函館市松風町七番一八号に本店を置き、鮨の製造及び販売などを目的とする資本金八〇〇万円の有限会社であり、被告人松橋保(以下「被告人」という。)は、被告会社設立当時の昭和三五年ころから、取締役あるいは代表取締役として、被告会社の業務全般を統括していた。被告人は、被告会社の業務に関し、売上の一部を除外するなどの方法によって、所得の一部を隠し、法人税を免れようと考えた。
第一 被告人は、平成三年一二月二七日、被告会社の所轄税務署である函館市新川町二六番六号の函館税務署において、函館税務署長に対し、平成二年一一月一日から平成三年一〇月三一日までの事業年度における被告会社の実際の所得金額が一億三七八三万九八一三円であったにもかかわらず、その事業年度の所得金額が九六五三万六八六五円で、これに対する法人税額が三六五六万〇一〇〇円である旨のうその法人税額確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を経過させた。その結果、被告会社のその事業年度における正規の法人税額五二〇四万八八〇〇円と申告税額との差額一五四八万八七〇〇円を免れた。
第二 被告人は、平成四年一二月二八日、函館税務署において、函館税務署長に対し、平成三年一一月一日から平成四年一〇月三一日までの事業年度における被告会社の実際の所得金額が一億二八七七万七五九五円であったにもかかわらず、その事業年度の所得金額が七九一九万七六七一円で、これに対する法人税額が二九九二万六二〇〇円である旨のうその法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を経過させた。その結果、被告会社のその事業年度における正規の法人税額四八五一万八七〇〇円と申告税額との差額一八五九万二五〇〇円を免れた。
第三 被告人は、平成五年一二月二八日、函館税務署において、函館税務署長に対し、平成四年一一月一日から平成五年一〇月三一日までの事業年度における被告会社の実際の所得金額が七六五七万〇二六九円であったにもかかわらず、その事業年度の所得金額が三三三六万一六九四円で、これに対する法人税額が一一七五万九一〇〇円である旨のうその法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を経過させた。その結果、被告会社のその事業年度における正規の法人税額二七九六万二五〇〇円と申告税額との差額一六二〇万三四〇〇円を免れた。
(証拠)
括弧内の番号は検察官の請求番号を示す。
全部の事実について
1 被告人の
(1) 公判供述
(2) 検察官調書(六通)
2 登記簿謄本
3 松橋文子、森村博、齋藤博文の検察官調書
4 大蔵事務官の調査書(七通)、調査報告書
5 捜査報告書(甲16)
6 法人税決議書綴一綴(平成七年押第一五号の1)
第二、第三の事実について
7 捜査報告書(甲8)
(法令の適用)
罰条(いずれも)
被告会社 法人税法一五九条一項、一六四条一項
被告人 法人税法一五九条一項
刑種の選択(いずれも)
被告人 懲役刑選択
併合罪の処理
被告会社 平成七年法律第九一号(刑法の一部を改正する法律、以下「改正法」という。)附則二条一項本文、同法による改正前の刑法(以下「改正前刑法」という。)四五条前段、四八条二項
被告人 改正法附則二条一項本文、改正前刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の最も重い第二の罪の刑に加重)
刑の執行猶予
被告人 改正法附則二条一項本文、改正前刑法二五条一項
(量刑の理由)
一 本件は、被告会社の代表取締役をしていた被告人が、被告会社の三期分の法人税の一部を免れるためうその申告をし、合計五〇〇〇万円余りの法人税を不正に免れたという事案である。
税金を不正に免れた金額は多額であり、その金額が正規の税額に占める割合も、平成三年分は二九・七パーセント、平成四年分は三八・三パーセント、平成五年分は五七・九パーセント、三年分を平均すると三九・一パーセントと相当の割合に上っている。
被告人は、犯行の動機について、景気の変動や板前の独立などによって将来商売が行き詰まることがあり得るので、それに備えるために帳簿上は残存しないこととなっている資産を作ろうとした旨述べるが、これらは、被告人の経営する業種のみならず他の業種においても起こり得ることであり、これらの対する対応策は法律上許される他の合理的な方法によって行うべきであり、被告人のように不正に税金を免れる方法によって対応するのは、納税義務を軽く見て、専ら自分の経営する会社や家族などの利益を図るものにすぎず、身勝手である。
脱税の手段は、日々の売上金や期末の在庫品の一部を除外して申告するというものである。売上除外については、毎日売上げから除外する金額を決め、適宜の客の売上金額をレジに打たず、除外分の現金をレジから抜き取ることを日常的に行っており悪質である。また、在庫品の除外は、実物を点検するなどしなければ発覚しにくいもので巧妙である。
さらに、被告人は、除外したかどうかにかかわりなく売上伝票全部を廃棄し、除外した売上金は、仮名や無記名の定期預金を利用したり、目立たないよう海外のゴルフ会員権を購入するなどの方法で保管しており、脱税が発覚しないよう努めている。
その上、被告会社は、函館市内では名の知られた鮨店であり、本件脱税行為が社会に与えた影響も大きい。
以上によれば、被告会社及び被告人の刑事責任は重い。
二 他方、被告会社は既に修正申告をし、本税、重加算税及び延滞税を合計して、本件分として八六〇〇万円余りを、それ以前のものを含めると一億八〇〇〇万円余りを完納していること、被告人は、捜査段階から犯行を全面的に認め、公判廷において今後は経理体制を改善するとともに納税義務を果たす旨誓っていること、被告人にはさしたる前科がないことなど酌むべき事情も認められる。
三 以上のような諸事情を総合考慮して、刑を定め、被告人については、今回に限り社会内で自力更生の機会を与えるのが相当と判断した。
(検察官 千葉雄一郎 私選弁護人 被告会社、被告人 小林紀一郎 各出席)
(求刑 被告会社 罰金一五〇〇万円、被告人 懲役一年)
(裁判長裁判官 荒川英明 裁判官 後藤眞知子 裁判官 森島聡)